岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞 真学塾㊼ 教育学部 国語専修 濱千代いづみ  

古人にも情報を読み解く力は重要でした

岐阜聖徳学園大学教育学部教授 国語専修 濱千代いづみ

 若い人たちがこれからの社会を生きるために、対話的で批判的な読解力のほかにデジタル読解力を養うことが求められています。デジタル読解力とは、複数のサイトに目を通し信用できる情報かどうか判断したり、複数の意見を比較して考えたりして読む力です。近年は会員制のオンラインサービスで発信された情報に次々とツイートが行われ、時として収拾がつかない事態に至ります。

 情報の真偽を見抜くことが、いかに重要であるかを知ることのできる話が古典の中にも存在します。まず、もたらされた情報の信憑(しんぴょう)性を確認して行動を起こした話を『保元物語』から紹介します。

 保元の乱(一一五六年)で敗者となった偉丈夫の(みなもとの)為朝(ためとも)は、近江の国の山寺に隠れました。ある時、療養のために湯屋に行き、居合わせた人々に不審がられます。さらに土地の人々によって領主に通告されます。領主は為朝の顔を知っている雑色(ぞうしき)(雑用係)を派遣して本人か確認させた上で、大勢で押し寄せて為朝を捕縛し、それが手柄となりました。

 次に、操作された情報を鵜呑(うの)みにしたまま行動に至った話を『平家物語』から紹介します。

 平安時代の末期(一一八一年)、長良川をはさんで源氏と平家の戦いがありました。墨俣合戦といいます。墨俣で敗れた源氏の大将(みなもとの)行家(ゆきいえ)は、柳津、熱田、矢作川と後退しました。矢作川でも敗れた行家は、配下の雑色たちを使って「源頼朝(よりとも)の率いる大軍が、行家に合流しようとしている」といううわさを広めました。追手の平家はそれを信じ、軍勢を撤退させました。行家は敗退せずに済みました。

 上記の時代は現代のように瞬時に情報が伝達される時代ではなかったけれど、情報の真偽を見抜けるかどうかが、当時の人々の人生を左右したのは確かです。

 対話的で批判的な読解力もデジタル読解力も、入手した情報を評価し分析して正しく読み解く力である点で一致します。情報に偏りはないか、情報に欠損はないかと立ち止まってみるのは、誤認を防ぐ一つの方法です。しかし、本当に読解力をつけるためには、よく練られた精度の高い文章を読むように心がけ、思考のための持久力と表出のための言語運用力とを培う必要があります。

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