岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞 真学塾71 教育学部 柏木良明

山脈と局地風

岐阜聖徳学園大学 副学長 柏木良明

 冬になると、この地域では「伊吹おろし」と呼ばれる北西季節風が強く吹きます。大きなスケールで吹く冬の季節風ですが、風上側に伊吹山がそびえ、その方向から吹いてくるというイメージでよく使われています。岐阜県の学校の校歌の中に「伊吹おろし」という歌詞が含まれることも珍しくありません。

 冬にシベリア付近で冷やされた空気は重くなって地上付近(高さ3,000mくらいまで)に蓄積します。ここから流れ出す空気(寒気)は、はるか南の方向に東西に連なるヒマラヤ・チベットの高い山々にブロックされ、その分日本列島に向かってたくさん流れてきます。これが冬の北西季節風です。この山脈の連なる向きを走向と呼びます。

 一方、北アメリカではロッキー山脈が、南アメリカにはアンデス山脈が南北に連なっています。このことは高緯度地方からの寒気がブロックされにくく低緯度地方まで流入しやすいことを意味します。例えば暑いイメージの国ブラジルでも、南極育ちの冷たい風「フリアージェン」が北上して、コーヒーの収穫に被害が出ることがあります。このように山脈の走向は気候に大きな影響をもたらします。

 「伊吹おろし」と同じように、近くの有名な山の名前をとって「○○おろし」と呼ばれる風があちこちにみられます。阪神地区の「六甲おろし」、群馬県の「赤城おろし」、栃木県の「那須おろし」、茨城県の「筑波おろし」、、などです。いずれも太平洋側の地域で、特に冬の北西季節風が強いところです。

 これに対して、日本海側では春や秋に「○○だし」という名前のついた風が吹きます。山形県の「清川だし」、新潟県の「荒川だし」、「安田だし」などがあり、日本海に低気圧が進んできたときに日本海に向かって吹きます。この「だし」は、フェーン現象を伴うことが多く気温が上がります。フェーン現象とは、山を越えてくる風により高温かつ乾燥する現象を指します。ヨーロッパアルプスの谷間で南の地中海の方からアルプスを越えて吹き下ろす局地風「フェーン」と同じ原理で起こることから「フェーン現象」と呼ばれます。この「フェーン」が吹くと、アルプスの谷間の積雪も短時間のうちに消えていきます。世界各地でこうした「フェーン現象」はみられ、その地域固有の局地風として名称がつけられているものも数多くあります。北アメリカ大陸のロッキー山脈東では、西の太平洋側から山を越えて吹き下ろす「シヌック」が有名です。

 山脈の走向など地形は、局地風のような気候に大きな影響をあたえます。また気候はその場所の植生や人々の暮らしに様々な影響をもたらしています。こうした地形、気候、植生といった自然現象の分布の関係や、各地域における人間生活との関係の違いを考えることはとても興味深いことです。

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