岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞真学塾 短期大学部③ 石田 開

「科学的」にご用心?

岐阜聖徳学園大学短期大学部准教授 石田 開

 映像メディアやインターネットなどの普及で言葉、文字に接する機会が減ったとは言え、生活の中で、様々な「説明」の文章を読む機会はまだまだあります。私たちは、どんな説明を「よい」と感じるのでしょうか。

 アメリカで行われたある研究(※1)では、被験者に、人間の心理現象についての説明文を読ませ、どれだけよい説明であるかを評価してもらうということを行いました。その実験では、現象を単に言い換えただけであまり説明になっていない文も提示されました。そうした説明文は、本来「よくない」わけですが、そこに「神経科学的な記述」(専門用語を交えて脳の働きについて述べた文)が含まれていると、被験者たちはそれを「よい」説明だと感じました。その神経科学的な記述は、「それらしい」だけで、実際には現象の説明と関係がなかったにもかかわらずです。どうやら、専門的・科学的記述が含まれていることが、(趣旨とは関係なくても)文章に権威を与え、読み手を眩惑してしまうようなのです。(しかも、この研究では、素人はもちろん、神経科学を学んでいる学生がむしろ惑わされました。)

 その後行われた同様の研究(※2)では、神経科学的な文章記述だけでなく脳の活動状態を表すfMRI画像(やはり説明の趣旨とは関係ないもの)も付けると、より強力に、説明を「よい」と感じさせるという結果も出ています。その他、説明が長い方が、(実際には内容としてよいわけではなくても)「よい」と評価されるという研究結果(※3)もあります。

 健康食品や電化製品などの広告でも、その効果や機能の説明として、「科学的」な文章や図が添えられていることがあります。その際、実際には効果や機能の説明になっていない「一見、科学的」な記述に惑わされることなく、その本質を見抜く文章読解力を身につけたいものです。(2022年2月27日岐阜新聞掲載)

 (※1 Weisberg et al. (2008). Journal of Cognitive Neuroscience, 20(3), 470-477.  ※2 Im et al. (2017). British Journal of Educational Psychology, 87, 518-534. ※3 Weisberg et al. (2015).
Judgment and Decision Making, 10(5), 429-441.)