岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞 真学塾㊱ 教育学部 国語専修 木戸浦豊和 

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岐阜新聞 真学塾㊱ 教育学部 国語専修 木戸浦豊和 

東北大学附属図書館「漱石文庫」蔵 James Main Dixon, Dictionary of Idiomatic English Phrases

小説家・夏目漱石と英語

岐阜聖徳学園大学教育学部教授 国語専修 木戸浦豊和

 日本を代表する小説家の一人・夏目漱石(1867~1916)は優れた英文学者でもありました。ただし漱石が自分の専攻を定めるまでには紆余曲折があったようです。数学が得意な漱石は当初、建築科を志望し、「ピラミッド」でも建てるような気持ちでいたといいます。ところが漱石は友人から「それよりも文学をやれ、文学ならば勉強次第で幾百年幾千年の後に伝えるべき大作もできるじゃないか」と諭されます。親友のアドバイスを受けた漱石は、英文学の研究で世界的な著述を執筆するという野心を抱いて専門を決めたのです。

 宮城県仙台市の東北大学附属図書館には漱石自身が所有した約3,000冊の本が保存されており、それらは「漱石文庫」と呼ばれています。その漱石文庫の中にJames Main Dixon, Dictionary of Idiomatic English Phrases(1887)という参考書があります。学生時代の漱石はこの熟語辞典を使って英語を勉強しました。この本にはほぼ全ページにわたって膨大な量の書き込みがあり、欄外の余白が文字で埋まると、漱石はさらに付箋紙を貼って例文などを追記しているのです。この参考書は漱石の大変熱心な勉強ぶりを伝えています。

 ところで漱石は英語の教師だったとき、学生たちに英語の「多読」を奨励していました。「英語を修むる青年はある程度まで修めたら辞書を引かないで無茶苦茶に英書を沢山と読むがよい、少し解らない節があってもそこは飛ばして読んでいってもドシドシと読書していくとついには解かるようになる」。

 現在、英語の勉強法の一つとして多読が注目されています。漱石による多読の薦めも自分の体験に裏打ちされた、実感のこもった言葉であるに違いありません。