岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞 真学塾㊵ 教育学部 音楽専修 村田睦美 

ピアノが生まれる

岐阜聖徳学園大学教育学部准教授 音楽専修 村田睦美

 みなさんは「ピアノ」の正式な名前をご存知でしょうか。この名前には深い意味があります。バロック時代に使われていた鍵盤楽器はチェンバロでした。

 チェンバロは、プレクトラムと呼ばれる爪が弦をはじくことによって音を出す楽器です。今から300年ほど前に、そのチェンバロ職人であったイタリアのクリストフォリによって、「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」と名づけられた、弱く静かな音から強い音まで、弾く人の求めに応じて自由に出せる画期的な鍵盤楽器が生まれました。それが、名前の後半部分のみの「ピアノ・フォルテ」となり、さらに省略され「ピアノ」と呼ばれるようになりました。ハンマーが弦を打つという構造から、単に強弱だけではなく、クレシェンド、デクレシェンド等、それまで出来なかったこと、経験したことがなかったことが可能になりました。

 これによって、作られる音楽の世界が拡大し、あらゆる音楽の構成、内容、表情が無限に広がり、新しい時代の音楽表現に可能な道を開くことになりました。

 ピアノは、繊細な心のあやを表現できる旋律楽器として、また、オーケストラ全ての楽器の音域をカバーする88鍵の鍵盤により多くの音を同時に出せる和声楽器として、強靭な音響により一人で演奏できる独奏楽器としての道を確実に獲得しました。多くの作曲家がピアノから刺激を受け、自己表現に情熱を傾倒、ピアノ独奏曲の作曲は欠かせないものとなりました。

 ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンは、ピアノ独奏曲の創作に情熱を傾け、素晴らしい芸術的表現を果たしたことで、とても大事な作曲家です。中でも、ベートーヴェンは、《悲愴》、《月光》、《ワルトシュタイン》、《熱情》をはじめとする32曲のピアノソナタによって、人間精神の奥深く潜む心の姿を音に刻む結果をもたらしました。

 それ以後、シューマン、ショパン、リスト等、著名な作曲家から現代の作曲家に至るまで、ピアノによせる期待と試みは尽きることなく続いています。多くの楽器が歴史の中に埋もれ消滅していった中にあって、ピアノは、誕生から現在に至るまで絶えることのない響きを今に続け、作曲家の琴線に触れ、創造をもたらしています。

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