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第5号 平成19年8月発行

「中越沖地震から学ぶこと」

譲 西賢

今年7月16日午前、中越沖地震が発生して、7月30日時点で11名の方々が亡くなられ多くの負傷者と建物の被害が出ました。被災されました皆様には衷心 よりお見舞い申し上げます。この度の地震では、柏崎原子力発電所が震度6強の揺れに直撃され、50箇所ほどに被害が出ました。幸い原子炉本体のダメージは なく、軽い放射能漏れはあったものの人に直接被害が及ぶことはなかったとのことです。

しかし、発電所の責任ある人の口から「今回は、想定を越えた揺れでしたから多少トラブルが生じました」と聞くと、ドキッとします。阪神淡路大震災は震度 7と聞いています。日本中至る所に活断層があるとも聞いています。震度6強の揺れで想定外といわれては不安だけが残ります。今回の地震では、専門家の方々 の多くは、原子力発電所(原発)の安全性が実証できたと受け止められているようですが、「原子力発電は本当に必要で、本当に安全なの?」の問いを改めて検 証する必要があるように思えます。

原子力発電は20世紀半ばから、水力発電・火力発電に次ぐ第3の発電として注目され、地球資源を使用せず、都会の近くに建設可能であることから、安全性 への不安はかかえながらも世界中で原発が建設されました。しかし、1979年のアメリカのスリーマイル島の原発事故や1986年の旧ソ連チェルノブイリ原 発の爆発事故によって安全神話が崩れ、それ以後、多くの国は原発の建設を中止してきました。日本は、その後も原発の建設を進め、現在では全国で55基、ア メリカ・フランスに次いで世界第3位の原発建設国です。

しかし最近になって、原油高・地球温暖化問題が深刻化する中で、アメリカ・中国・インド・リビア等では、石油を使わず二酸化炭素を生じない原子力発電を 見直し、原発建設が再び推進されようとしています。現在世界中で429基建設されて稼動し、新たに82基の建設が予定されています。

現在の人間の文明において、電気エネルギーは不可欠なのでしょうか。節電を優先して呼びかけるよりも、電力を補給することが解決策として優先されている ようです。この実情に、安全対策の想定を超えた地震が襲いかかる現実があるのです。人類は、今、文化生活を快適に送るためのエネルギーの供給と安全の確保 というジレンマ・難しさに直面しているのです。

親鸞聖人は、この人類不可避のジレンマを善導大師のことばを引用されて、「『自身は現にこれ罪悪生死の凡夫、曠劫より已来、常に没し常に流転して、出離 の縁あることなし』と信ず」と著しておられます。世界の人口が急速に増加して、現在65億人を超えました。皆が文化生活を獲得していけば、エネルギーは不 可欠であり、現在では原子力発電へ依存せざるを得ないのです。「いくら安全性が高いといっても、今回の中越沖地震のように想定外の揺れで少なからず被害が あれば、これ以上の地震では安全とは言えないから原発反対」という意見は正論です。しかし、「何千年に一度あるかないかの地震におびえて原発を廃止して、 地球温暖化を悪化させ、高い原油を用いて経済を破綻させるのか」という意見も正論です。また、「今さら、電気を節約して、エアコン・テレビ・冷蔵庫等を使 用しない生活はできない。電気エネルギーを現在より減らすことは耐えられない」という意見も正論です。このことが、まさに「罪悪生死の凡夫、・・・・出離 の縁あることなし」ということです。自分の損得を考えながら生きていけば、地球を壊すという罪を犯すし、安全が保障されないから不安だし、「これでいい」 という生活は見出せないという私たちの姿を指摘されているのです。

私たちが生きるということは、矛盾をはらみ不安をかかえ出口のないトンネルを走るということではないでしょうか。何よりも、自分の都合・損得を計算して 生きるしかない私たちですから、出口のないトンネルに迷い込むのです。原発の是非の議論は人間の知恵では、答えは出ないと思います。原発問題のみならず、 生活のすべてにおいて、自分の想い・都合・損得を計算して生きる自分を自覚するとき、私たちは、少なくとも自分が納得できる選択をし、行動を起こすのでは ないでしょうか。その行動に、如来様の願いが届いていると感じとれるのが真宗門徒なのです。

私たちは、自分の判断の危なさを忘れて、経験によって得た知恵に基づいて行動するときに間違えます。科学者は、原発を建設する前に、自身の知恵に溺れることなくその危なさを自覚すべきですし、私たちは、原発反対を口にする前に、消費電力を減らす難しさを自覚すべきです。

自ら築いた文化文明に苦しむ人間に、その自覚という智慧をもって、如来の大悲は、私と地球といういのちとなって、今、ここに、実現成就しているのです。