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第18号 平成21年2・3月発行

「鬼は外、福は内?」

河智義邦

2月3日になると、日本全国各地で節分の豆まきの光景が見られます。もとは平安時代に宮中で大晦日に行われていた「追儺(ついな)」という悪鬼を払う儀式に由来すると考えられています。(中国の陰陽道という民間信仰からの伝来です)
現在のように、鬼に対して豆をぶつけるというスタイルは室町時代あたりから始まったようです。豆を鬼にぶつけることにより、悪鬼・邪気を追い払い、一年の無病息災を願うという意味合いがあるようです。「鬼」というのは、なかなか多様な意味がある言葉です。ここでは、いくつかの意味を拾ってみます。まず「鬼」という字を「おに」と読みますが、「おに」の語は「おぬ(隠)」「おん(陰)」が転じたもので、元来は姿の見えないもの、この世ならざるもので、後に人に災いをもたらすもの、つまり「邪気」のこととを指すようになったようです。
陰陽道では、邪気は鬼門、北東(艮=うしとら:丑と寅の間)の方位から出入りされると信じられています。鬼の姿が、虎柄のシマシマパンツをはき、牛のような角があるのはそこからきているようです。つまり、鬼は人間に災いをもたらす存在で、それを霊力が宿ると信じられている大豆をまくことで追い払おうという、自然宗教観に由来する呪術・信仰であり、現在でもそういった意味で行われているようです。先人は、災害、病、飢饉など、恐ろしい出来事は鬼の仕業と考え、それを予防しようとしたのでしょう。
鬼を祭神または神の使いとしている神社、また方避けの寺社や、鬼の字が付く姓の家庭、もしくは鬼が付く地名の地域では「鬼は内」の掛け声が多いそうですが、「鬼は外、福は内」と称えながら豆まきをするのが一般的です。私自身は、そのような信仰(方角の吉凶観、大豆の霊力など)はなく、行為も行っていないのですが、多くの人がなにげに称えているこの「鬼は外、福は内」という考えと、鬼に豆をぶつけるという行為が、ずいぶん以前から気になっていました。それは違う「鬼」の意味との関連でです。
例えば、昔話の桃太郎に出てくる鬼のように、鬼とは、まつろわぬ者(権力に服従しない者)たちの象徴であったという説もあります。また、異形の民族に対し鬼という表現が使われます。本来の意味とは違うと知りながらも、節分の、豆をぶつける行為が、虎のパンツをはいた角のある異形の者(自分たちとは姿形の違う変わった人)を悪者として排除しようとする行いに見えてしまうのです。多くの人の心の中で、きちんと意味が使い分けられているようにも思えないのですが・・・。それを幼いときから習慣とすることになんとなく疑問を感じます。どうにも子供たちから豆をぶつけられている鬼(鬼役の人にではなく)の姿に悲哀を感じてしまいます。異形の者を鬼として忌嫌う人こそ鬼(この場合は無慈悲の者という意味で)といえるのではないでしょうか。
また、この世に災いをもたらし、人に迷惑をかけ苦しめる悪い存在の代表・象徴が「鬼」だとするならば、それは他ならぬ私の存在と受け止めた仏教者がいます。
妙好人(みょうこうにん)と呼ばれ山陰の寒村で生きた浅原才市(さいち)です。妙好人とは、幕末から大正にかけて浄土真宗の教えに生きた篤信で素朴な人々に対する敬称です。才市は、法悦に満ちた詩を数多く作り、それが世界的な仏教学者である鈴木大拙に見いだされ一躍脚光を浴びました。画家に自画像を書いてもらうときに、角を描いてくれと頼んだと言います。「あまり皆さんが、私をよくお寺に参るというでな、わしが寺に参るのは、鬼の才市がお寺に参るのだということを見てもらいたい」と言ったそうです。煩悩を捨てられない凡夫と言うことを角で表現したかったのかもしれませんし、阿弥陀仏の慈悲がなければ、自分は地獄に堕ちる鬼なのだとの自覚があったものと考えられます。その姿は、角があっても穏やかな顔になって手を合わせています。それは島根温泉津町の安楽寺に残されています。
「鬼」の様相をいくつかうかがってきました。私たちは、何かにつけて不都合なことが起きると、それは自分に原因があるのではなく、他(外)のせいにしがちです。また、自分の意に合わないことや存在を排除しようとする自己中心の習性があります。素朴な節分の豆まきの行事にそんなことをいつも思っています。マニアックな見方かも知れません・・・。実際上の「鬼」は存在しません。しかし「鬼のような人」がいるのは事実でしょう。才市の言うように、それは人の心にこそ住むもの(「鬼は内」)との自覚が大事です。