岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

法話 72号12月・1月 発行

インターネットの発達と人々の交流がもたらす、日本は世界最大の宗教国家であるかもしれないこと??の発見

城福 雅伸

 一昔前、日本の知識人は、欧米では日曜日には家族揃って教会に行き神父や牧師の話を聞くことに比べ、平気で「無宗教」「無信仰」と答える日本人の後進性を批判し、倫理観が低い、道徳性がない、いい加減だ、無節操だ、神と人間の区別がつかない特異な民族等々とけなし、いかに日本人が他国民に比べて劣っているか、倫理観が低いかなどを顔をしかめて説く論調がほとんどでした。
 多くの日本人はそれを聞いて内心それら知識人に反発は感じても反論する材料を持ちませんでした。
  ところが、インターネットが発達したり、いろいろな国々の人が日本訪れるようになりますと、その様相が一変します。

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 人を試すようなこのような実験をしていいのか疑問ですが、外国人のユーチューバーが日本で財布を落とす実験をしたところ、50回落とし、50回とも皆、走って追いかけてきて渡してくれた(日本では当然のことですが)と驚きの指摘をしています。
「自分の国なら財布を拾った人は財布を持ったまま走って逃げる」などのコメントが多数ありました。むろん、日本人でもそのまま財布を持ち去る人もいますし、窃盗をする人もいますが、全体的に傾向としては少ないといえましょう。
また信仰の厳格さではおそらくもっとも厳格であるイスラム教徒の人が、世界で活躍しているイスラム教徒の仲間たちと話すとき、よきイスラム教徒に最も近いのが日本人であるというのが共通した意見であると述べていたり、日本人には最初からイスラム教徒の基本となる二つの要素が備わっているとか、イスラム教の国をのぞけば日本で暮らしたいと願うとか、日本人の資質が良い、自分の宗教以外にも敬意を払うのも素晴らしい点であるという評価をしてくださっています。またアラブでは日本人を讃える詩や文学作品が多数あるということです。
さらには日本人とアラブ人は同じ東洋の民であり同じ東洋の民である日本人が先進国に入っていることを誇りに思うという声もあります。
  ここまで聞くと勘違いではないかと思ったり、評価してくださり過ぎているのではないかと恥ずかしくて穴に入りたくなるのが日本人の大半ではないでしょうか。
しかし以上のような評価があるのは事実であり「無宗教」「無信仰」であるはずの日本人が、篤信で厳格なイスラム教徒の人からも、すばらしい、優れている、人間の資質が良い、よきイスラム教徒に最も近いとまで評されている事実があります。

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 そうしますと、これら海外の人々の日本人への見方は錯誤なのか、それとも最近になって日本人の気質が変わったのか、それとも昔からおおよそ倫理的には高かったが、知識人が事実を曲げ、ためにする、日本をおとしめる発言をしていたのか、あるいはそれらの組み合わせかなのかということになります。

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 中世に来日した宣教師が、すでに日本人ほど盗みを嫌う国民はいないとか、大半が感情にうち勝つ理性を備え理性に反して悪徳に耽ることはしない、親切な国民である、と現在の日本を訪れた外国人と同旨のことを述べています。そして福音を受け入れる心構えができているという指摘もありますが、それは、すでに当時の日本人が篤信のキリスト教の信徒と同水準かそれ以上の倫理観、考えを備えていたということに他なりません。
 そのため現代において海外から訪れた外国人の日本人観が錯誤に基づくものであるということと、最近になって日本人の気質が変わったということは否定できます。

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 テレビ番組「教えてもらう後と前」を見ておりますと、日本人の宗教を紹介していました。
 日本人に「あなたが信仰する宗教は何んですか」とインタビューをします。
 すると、すべての人が「無宗教」「無宗教だけど...仏教と言えば仏教...???」「家は仏教だと...思う...ぜんぜんわかんない」と答えて、番組に出演している人もみな「無宗教」と答えていました。さらにある調査では日本人の7割以上が「無宗教」ということが紹介されていました。
  ところが観光に来ていた外国の人々にインタビューすると皆明確に「キリスト教徒」「ムスリム(イスラム教徒)」と答えていました。
 そういった中、イスラム教のメッカの大巡礼(ハッジ)が紹介されます。
  今まで、日本人はイスラム教に接する機会も少なく、来日するイスラム教徒の人も非常に少なかったので、イスラム教自体を知らない人が多かったのですが、昨今ではビジネスでイスラム教徒の人とつきあう人も多く、また日本への旅行で来られるイスラム教徒も多く、時には日本在住の方もあるため、一般の日本人からもハーラルとか、ハラームとか、六信五行という言葉が聞かれるようになりました。
 本学学生からも高校の友人に外国から来たイスラム教徒の子弟がおり文化や価値観の違いに驚いたという話を聞いています。
 さて、番組で紹介された大巡礼は、イスラム教最大の宗教行事で、非常に重要な行事であり、六信五行の五行の一つで、生涯に一度は大巡礼をするのがイスラム教徒の願いとされます。
 そのため大巡礼には、世界中からイスラム教徒がサウジアラビアのメッカに参詣し3日間に200万人もの人が集まります。驚異的な数字です。
 そこで番組は、明治神宮の初詣参拝者数を紹介します。
 その数319万人です。
 なんと大巡礼の1.5倍以上の規模です。
さらに明治神宮だけではなく、これに匹敵する成田山新勝寺の298万人、川崎大師の296万人、伏見稲荷大社の277万人、鶴岡八幡宮の251万人、浅草寺の239万人、住吉大社の235万人、熱田神宮の235万人、大宮氷川神社の205万人、太宰府天満宮の204万人が紹介され、これらの一つ一つが大巡礼を超える規模の参拝者があることが明らかにされます。
 世界からサウジアラビアのメッカまで行かなくてはならないという大巡礼と、移動は日本国内で済む初詣は単純に比較できませんが、それにしても初詣の数字は驚くべき数字といえます。
 そのため、番組は、「無宗教」「無信仰」を広言してはばからない日本人が寺社仏閣に大挙して参拝に押しよせるというのはおかしくないか?(数字から見れば)日本は世界最大の宗教国家になる、と指摘する非常に興味深い内容でした。

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 海外では、宗教のみが善悪を教え、価値観を教え、倫理や道徳を教えるとされ、そのため「無信仰」「無宗教」の人は危険人物と見なされますが、その視点をもった海外の人から日本人の倫理観の高さを指摘されている事実があります。
 そして、参詣者数からでしかありませんが、番組では日本は世界最大の宗教国家ということができるというのです。
 宗教のみが善悪や倫理を教えるならば、海外の人々から倫理観の高さを指摘される日本人を育んだ日本が、世界最大の宗教国家であるとすることは論理的には整合性があり、世界最大の宗教国家であるからこそ、日本人が平均的に倫理観が高く親切であるということになります。
 そうしますと知識人の従来の指摘、批判が根底から覆ることになります。
 実際に、そうであるかは、まだ検討の余地がありますが、インターネットが発達し人の行き来が盛んになることによって、ものごとの意外な側面や今までわからなかったことがわかってくる、あるいは従来言われていたことが覆る事例の一つといえましょう。