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第2号 平成19年5月発行

「スピリチュアリズムについて」

河智 義邦

『大無量寿経(だいむりょうじゅきょう)』に「田があれば田に悩み、家があれば家に悩む。・・・田がなければ田が欲しいと悩み、家がなければ家が欲しいと 悩む」という一節があります。読経の時は漢文のまま読むので、「有田憂田(うでんうでん)・有宅憂宅(うたくうたく)」という音読みをするのですが、実際 に読むときは「う~でんう~でん、う~たくう~たく♪」と、「う」の音を少し伸ばして読んでいきます。これは、人間の貪欲(むさぼりの心)というものはキ リがなくて、絶えずあらゆることに不足感を抱いていて、心安らぐ時がないことを述べられたものです。有れば(持てば)有ったで悩み、無ければそれを求めて 悩む。私はこの一節を声に出して読むたびに、切なくなったりして、ホントにそうだなぁ、と自分の日常を振り返っています。

さて、人間の心・世界から悩みや憂いがなくなったことはなく、それを解決する術として、様々な方法を見いだしてきたのが先人たちです。その最大のものとし て科学技術があげられると思いますが、その一方、科学技術よりは歴史が古く、そして現代にあっても盛んなものが呪術(占い、家相、人相、墓相、おまじな い、願掛け、お守り、お札など)です。近代化が進み、科学技術が進んでも日本人の生活から呪術が消えることはありませんでした。最近はスピリチュアリズム がテレビなどで大流行です。いわゆる横文字にするとオシャレ感があるのか、普段は「非科学的、非合理的」などと言って、宗教を頭から毛嫌いする若者も、多 くの人が抵抗なく視聴したり購読しているようです。

この若者のスピリチュアリズムへの傾倒に警鐘を鳴らしているのが情報番組などのコメンテイターとしても有名な精神科医・香山リカさんです*1。スピリチュ アリズムとは、「霊魂」や「死後の存在」など、この世を超えた目に見えない世界やそこでの現象を信じること、またその世界からのメッセージを受け入れるこ とで、自身の悩みを解決しようとすることです。そのメッセージを伝える橋渡し役の人は、自身をスピリチュアルカウンセラーなどと称していますが、何のこと はない、古くは邪馬台国の卑弥呼(ひみこ)、恐山のイタコ、沖縄のノロやユタ、巫女(みこ)、拝み屋、霊媒師ともいい、そういった人達は古くから存在して います。神や霊と交信して人にメッセージを伝える人を宗教学用語でシャーマンと呼んでいます。占い師も同様です。スピリチュアルカウンセラーとは、現代版 シャーマンといえます。

私も順風満帆な人生を歩んできたわけではないので、問題を抱えるごとに知人や先達に相談したりアドバイスを頂くことはあります。しかし、占いやシャーマン に頼ったことはありません。そういった存在を信じることはできず、それらには何ら根拠がなく、因果の道理が見られないからです。親鸞聖人は誤った宗教観に 陥った人を戒めて、「末法になれば、妄説によって人々を惑わす者が多く出てきて、ついには人生を狂わせてしまうであろう」と述べています。釈尊も、根拠の ないアドバイスをするような者に従うよりは、自分で一生懸命に考えて行動する方がより良い、ということを説いておられます。ともに正しい因果の道理を深く 身につけよと仰っておられます。

悩みや憂いが尽きないことは、冒頭の経説の通りで、人間の実相です。その解決を超自然的な存在に求める心理も一寸(ちょっと)理解はできますが、そこに本 当の問題解決はないように思えます。もっと、地に足が付いた考え方で問題に臨むべきと思います。それとともに、香山さんが指摘されてますが、大学生へのア ンケートで、死んだ人間が生き返ると答えた学生が24パーセント、霊魂の存在を信じるが61パーセント、生まれ変わりを信じるが56パーセントいるとい う、この現状も深刻です。