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第30号 平成23年2月・3月発行

響き合ういのち

河智 義邦

 まずは、3月11日の東日本大震災によって多大なる被害に遭われた皆様に心よりお見舞いを申し上げます。いまだ先行きが見えない状況の中で計り知れない不安な日々を過ごされていることと存じます。今回の出来事は、想定を越えた、未曾有の大災害に違いはありませんが、震災に対するあらゆる政府の対応が後手後手になっているように感じるのは私だけではないと思います。しかし、政府は政府として物心両面からなすべきことをするのは当然ですが、私たち一人一人が同じ国民として、そして人間として何を想い何をすべきか・・・。すでにそれを考えてる時ではなく、何か行動する時のようにも思います。まずは今この場で私にできることを精一杯する、そのようなことしか思いつかない自分に恥じ入るばかりです。

 そうした中、テレビの番組も少しずつ通常放送に戻ってきたようですが、この間(今でも)、ACジャパンのCMが多く流されていました。私には大変印象深いものが2つありました。一つは、詩人宮沢章二さんの『行為の意味』の一部分から引用した「思いは見えないけれど、思いやりは見える」という言葉が登場するCMです。CMの全文では「こころは誰にも見えないけど、こころづかいは見える。思いは見えないけれど、思いやりは誰にでも見える」と出てきます。揺れる少年の気持ちが伝わってきて、自らをそこに重ねて視聴しています。

 また、もう一つは、詩人金子みすずさんの作品『こだまでしょうか』が登場するCMです。全文をあげてみます。

    「遊ぼう」っていうと
    「遊ぼう」っていう。
    「馬鹿」っていうと
    「馬鹿」っていう。
    「もう遊ばない」っていうと
    「遊ばない」っていう。
     そうして、あとで  さみしくなって、
    「ごめんね」っていうと
    「ごめんね」っていう。
     こだまでしょうか、いいえ、誰でも。

 「こだま」は、「ヤッホー」と言うと「ヤッホー」と返ってくる(返してくれる)、自分が言ったことをそのまま返してくれます。つまり「こだま」は、ありのままの自分を受け入れてくれる、そんな存在・世界を象徴しているのです。痛みを感じ、苦悩を抱えた人に「我慢しましょう」「乗り越えてください」というのは簡単です。しかし大切なのは、「つらい」と言っている人に「つらいですね」、「苦しい」と言っている人に「苦しいですね」と、その人の痛さや苦しみを受け入れる姿勢や言葉ではないかと思います。私自身の経験に照らしても、そのように共感してもらえることで、救われていく世界もあるような気がします。

 また、この詩には違った解釈もできるように思います。自分が言ったことがそのまま返ってくるというのは、例えば、相手に向かって感情的できつい言葉で何かを言ったときには、相手をも不快にしきつい言葉や態度が返ってくる、おだやかな気持ちから発したやさしい言葉は、相手をおだやかな気持ちさせるといった、そうした他者との関わり方へのヒントを与えてくれてるようにも受け取れます。

 親鸞聖人が「真実なる生き方とはどういうものか」を問うときに常に依りどころとされた『仏説無量寿経』に「和顏愛語」という言葉が出てきます。柔らかな笑顔と、やさしい言葉、これが人と接するときの態度の基本となるのです。この言葉は、広大無辺につながり合い、響き合ういのちの中で生きていく上において、大切な普遍的態度を仏教的に表現したものと言えましょう。今の詩でいうと、どちらの立場になったときにも共通する態度だと思います。私も、それを実践することの難しさを痛感しながらも、そうした「いのちの一員」として実践を心がけ続けています。