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第33号 平成24年1月・2月発行

諸行無常の今を生きる

譲 西賢

 2010年6月に7年間の宇宙の迷い旅を経て、地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」を覚えておられますか。先日、この「はやぶさ」の打ち上げからカプセル回収まで携わられたJAXAの月・惑星探査プログラムグループのディレクター川口淳一郎さんのお話を聞くことができました。

 「はやぶさ」は、2003年5月19日に打ち上げられ、小惑星イトカワへの着陸を果たし、資料採取を試みた後、2010年6月13日、7年間60億キロの宇宙旅行を終えて地球に帰還しました。大気圏への突入で本体は焼け尽きてしまいましたが、資料カプセルをオーストラリアの砂漠に降下させ、無事回収されました。太陽系の小惑星イトカワへの探査は、地球という星を正確に知り、地震や異常気象を予知するためだそうです。重力が強い地球は、地球をより詳しく知るうえで必要な物質が、40数億年の歴史の中で地球の内部深くに沈みこんで手がかりが得られにくく、重力の弱い小惑星の表面を研究することによって、地球を知る手がかりが得られるということのようです。

 今回の探査で、カプセルには目には見えない小さな試料が沢山詰まっていたそうです。今、世界中の研究者が、この解析に当たっているそうですが、資料の60%は手をつけずに、そのまま保存されるとのことです。近い将来、今よりもすぐれた解析方法や機械が開発されるだろうから、その時のために残しておくのだそうです。現在の解析技術を過信するのではなく、至らなさに気づき自覚しておられるから、こうした措置が講じられる訳です。採取された資料は地球上には存在しないものですから、やり直しや修理が利かないことが前提です。ですから限界を自覚し、深追いしない研究姿勢が必要なのです。

 また、宇宙を研究するに当たって、目の前にある「今」は、過去であることを知っていなければならないとも言われました。確かにそうです。太陽から届く日光は、私には今であっても、8分19秒前の太陽の光です。地上において見える今の宇宙は、距離によって時間の差はありますが、すべて過去の宇宙ということです。過去が「今」届けられているのが、宇宙の中の地球であるということです。

 仏教で教えられる「いのちの真実」の一つは、諸行無常です。すべてのいのちは、常に移り動くということです。宇宙を観察し研究するということは、諸行無常と向き合うということだったのです。自分の健康も状態も、人の気持ちもすべてが移り動くことが真実であると、私たちは、心底納得して生きているでしょうか。「今日がダメならまた明日」と、今をおろそかに生きていないでしょうか。今のこの一瞬は、今しかないのです。いかなる今も、自分の人生には不可欠です。自分の思いにかなう今だけに執着した生き方になっていないでしょうか。いかなる今も、自分の人生として深く味わっていただくことを、私は、宇宙研究の最先端で活躍されている方から教えていただきました。