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第9号 平成19年12月発行

「顚倒の善果よく梵行を壊す」

譲 西賢

先日、兵庫県の豊岡市にありますコウノトリの郷公園へ行くご縁をいただきました。
昭和46年、豊岡市のコウノトリの死を最後にわが国古来のコウノトリは絶滅しました。その後昭和60年にロシアから6羽のコウノトリを譲りうけ、コウノ トリが生育できる環境を確保するために創られたのが、この公園です。親鳥は羽を広げると約2m、1日分の餌は、ドジョウに換算すると約80匹を食べるそう です。完全な肉食で、蛙・蛇・バッタなどが大好物とのことです。わが国でコウノトリが絶滅したのは、農薬・コンクリートの用水等の影響で餌になる動物が、 大量にいなくなったことや水銀を摂取することによって雛が誕生しなかったからのようです。
公園では、これらマイナス要因の環境を排除してコウノトリを飼育し、一方では、地域のお百姓さんと行政の理解と協力を得て、農薬を使わず、沼地や小川を 復活させ、餌となる動物が大量に育つ環境が復活されました。その結果、現在では、公園内に100羽以上のコウノトリが飼育され、今年9月22日の3羽を含 めて17羽が自然に帰され、約500キロ四方を飛んでいるそうです。日本中のどこで巣を作ってもいいわけですが、17羽とも豊岡に戻ってくるそうです。コ ウノトリが生育できる環境は、現在の日本では豊岡市以外にはないということのようです。今年7月31日には、自然に帰されたコウノトリの間に生まれた雛が 巣立ち話題にもなりました。
この公園を訪れて、私は、人間の文化・文明に潜む怖さを再認識しました。昭和30年代から40年代にかけて、わが国は、東京オリンピックの開催を転機 に、経済が高度成長し、物の豊かさこそが幸せのシンボルと誰もが信じていた頃に、コウノトリが絶滅したのです。他の生物を滅ぼしながら人間は、目先の豊か さ・快適さ・便利さを幸せと称して、愚かにも悦に入っていたのではないでしょうか。
親鸞聖人は、『教行信証の行の巻』に、龍樹菩薩のことばを引いて「顚倒の善果よく梵行を壊す」と著しておられます。人間は、思い違いをしているから、善 と思っての行為が大切なことを壊してしまうことになり、人間は、自力で悟りを得ることが難しいと述べておられるのです。コウノトリの絶滅は、三十数年前 に、現代日本の復興と豊かさを「顚倒の善果:思い違いによる間違った善」と指摘してくれていたのではないでしょうか。今日の地球温暖化に代表される環境問 題も、三十数年も昔に既にコウノトリが教えてくれていたのです。人間は、自分の知恵に溺れた時に、必ず自らを窮地に追いやり、滅ぼすことになることを忘れ てはならないのです。
悩める児童・生徒や保護者のカウンセリングをしていますと、「わが子のために良かれ」と思い、過剰にわが子にかかわられた親御さんにしばしば出会いま す。親御さんの「わが子のため」が顚倒、つまり、思い違いなのです。「自分にとって都合のいい子」を求めていたから、その結果のいい子は、大切なわが子を 児童期や青年期に悩ませることになるのです。また、ある青年は、ライバルに勝ちたいという思いから勉強を頑張り、いい結果を残したけれども、勝つために頑 張るという顚倒があったから、就職に失敗して自分を苦しめることになりました。
「顚倒の善果よく梵行を壊す」のことばは、自分の思いに照らして悪で間違うのではなく、善で間違える私たちであることを自覚させてくれるのではないでしょうか。