岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞 真学塾 外国語学部⑥ 宮原 淳

選択の楽しみ

岐阜聖徳学園大学外国語学部専任講師 宮原 淳

 ココナッツミルクの香りが充満するマレー料理店。歯応えたっぷりの羊肉グリルが人気のギリシア料理店。色鮮やかなトッピングが自慢のベトナムの麺屋。カナダを訪れると、一つの大通りをぶらりと歩きながら、どの国の料理にしようかと選ぶことが私の楽しみです。本学部生とも短期留学で何度か一緒に訪れましたが、初めて見る料理の選択を楽しんでいる様子でした。

 カナダは移民国家です。家庭の食事は出身国の影響で世帯ごとにまるで違います。そんな国だからこそ、何がカナダらしいかは答えにくい問題です。さらに、隣のアメリカや、歴史的につながりが深いイギリス等英語圏の影響を受けやすいことも、カナダらしさの答えを難しくしています。

 そんなカナダにとって、国境を越えて入ってくるメディアは脅威です。ハリウッド俳優の大作ドラマや、見た目が派手なバラエティ番組等は高い人気です。巨額予算をかけたグローバルなコンテンツに対して、比較的小規模なカナダのメディアは勝たねばなりません。もし負ければ、カナダの地元ニュースが消えてしまうことになりかねないのです。

 だからこそ、カナダの視点で語るメディアを守り、育てなければいけない。そんな危機感は歴史的に根強くあります。カナダは世界でも最も早く1980年代ごろから、小学校から高校まで幅広く、メディア教育を導入してきました。メディアを賢く選択し、重要な情報を選ぶことを教えています。

 メディア教育は今や世界中に広がりました。現代は特に、メディアが流す情報を市民が的確に選ぶことが重視されています。メディア企業が市民の選択を見ているからです。

 例えば、世界で最大の影響力を持つといわれる新聞、ニューヨーク・タイムズ紙も読者の選択を分析しています。私が見学した朝の定例編集会議においては、アクセス数が多く、S N Sで注目されている記事が討論されていました。逆に、読まれない記事は地味に扱われることになります。それがたとえ、世界の誰かにとっては極めて重要なニュースであったとしても。市民の選択がコンテンツを変えていくのです。

 日本の私たちも情報の選択を問われています。それは、レストラン選びと似ているかもしれません。ニュースも料理も、人気のあるものが良いとは限りません。写真や見出しなど見た目に騙されることがあるかもしれません。でも、それ以上に、知らなかった地元や遠い世界各地など、未知と出会う感動を見つけられるはずです。(2020.12.13岐阜新聞掲載)

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