岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞 真学塾 外国語学部⑪ 矢野賀子

「たべる」「のむ」に「食」「飲」は使わない!

岐阜聖徳学園大学外国語学部教授 矢野賀子

 民族Aが文化レベルの高い民族Bの土地に移住したとき、ABの言葉は相互に影響しあうことになりますが、文化的な用語についてはAはBのものをそっくり受け入れるのに対して、Aの日常用語は変化しないといわれています。そこで、例えば、日常用語の「たべる」「のむ」にどの漢字が使われ、その分布を調べることである民族の移動や勢力を明らかにすることができます。

 中国語入門の授業で、「たべる」は「喫」,「のむ」は「喝」の漢字を使うと説明すると、学生たちは「食」「飲」は使わないんだとちょっとびっくりします。はっきり何年とは言えませんが千年ほど前には中国大陸では「喫」「喝」を使う民族の勢力が強くなり、「食」「飲」を使う人たちは中央からいなくなり、今に至っているということです。ただ、今も「食」「飲」を使う人たちは中国大陸南西部に残っています。

 1500年前のころの中国大陸は大きく乱れて、かなりな数の人が日本に渡ってきたようです。日本に漢字を伝えた部族は「食」「飲」を使う人たちであったといえるでしょう。

 現代中国語では、同じ漢字が日本語の意味と異なる使われ方をすることがよくあります。「走」は「あるく」、「去」は「去る」ではなく「いく」の意味で、「睡」は「ねる」の意味になります。幸い「起きる」は日本語とおなじ「起床」です。

 めんどいなと思うかもしれませんが、それは中国大陸では日常用語は「喫」「喝」の民族のものが使われているのに対して、我々日本人は「食」「飲」を使用する人たちの漢字の使い方をいまも踏襲しているからです。ただこうしたことは主に日常用語の範囲です。

 ところで、現代中国語の語彙の7割以上が日本語と同じであると言われています。それは日本が明治時代に近代化のために創った大量の日本製漢字語(「政治」「経済」「思想」等)を中国語がそのまま受け入れたからです。漢字が苦手な人も、普段に使っている日本語の単語を中国語読みすればいいんだと思うと、ちょっと得をした気になりませんか。(2021.1.17岐阜新聞掲載)

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