岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

法話 第67号 令和2年2月・3月 発行

グレタ・トゥーンベリさんの怒りの理由

河智 義邦

 ニューヨークで9月に開催された国連の温暖化サミットにおいて、世界中から注目されたスウェーデンの女子高校生がいました。グレタ・トゥーンベリさんです。ご存じの方も多いと思います。とくに彼女が5分間のスピーチの中で歯に衣着せぬ物言いをしたことが話題になりました。ストックホルム近郊の高校に通うグレタさんは、地球温暖化の危機を訴える学校ストライキなどで有名になり、環境問題を話し合う国際会議での演説にも招待されるようになりました。この温暖化サミットでは、
  あらゆる生態系が壊れだし、私たちは絶滅の淵にいる。にもかかわらず、あなたたちは口を開  けばカネのことや、いつまでも続く経済成長などというおとぎ話ばかりだ。よくもそんなこと  が言えるものだ。
という中にある「よくもそんなことが」というフレーズを4回も述べて、政財界のリーダーに代表される大人すべてを批判したのです。1月のダボス会議でも、
  今までの経済的な成功は、とんでもない代償を伴ってきたのです。解決策は非常に簡単で、子  どもにも理解できるものです。温室効果ガスの排出を止めればいいのです。やるかやらないか、  それだけです。
と主張し、気候変動が緊急事態にあると訴えたのでした。落ち着いた佇まいの中に、時に鬼気迫り、迫力あるスピーチの姿勢や表現に対して、賛否両論が出ていました。私は素直に反省せざるを得ませんでした。なぜならば、グレタさんの主張の背景には、温暖化がこれまで考えられた以上に、急速に進み、深刻な状態、気候危機にあるという科学的知見に基づく根拠があるからです。
 専門家の中でも見解が分かれるところもあるのだと思いますが、このまま何も対策をしなければ、二酸化炭素排出量はどんどん増え続け、予測の幅はあるが、排出量は2100年に最悪のケースで現在の3倍以上になると見込まれています。平均気温は、早ければ2030年にはおよそ1.5度、上昇するといわれています。もし今後、1.5度を超えてさらに上昇すると、北極の氷の融解が止まらなくなり、温暖化が加速。それによってシベリアの永久凍土もとけ、温室効果ガスのメタンが放出。さらにアマゾンの熱帯雨林が消失するなどして、ドミノ倒しのように気温が上昇し続け、元に戻れなくなるというのです。この夏、最も暑かったわずか3日間で失われた氷は310億トン。実に、東京ドーム2万5000杯分に相当するそうです。この異変は、私たちの暮らしにどう影響するのか。国連の関係機関では、グリーンランドや南極の氷がとけることで、今世紀末、世界の平均海水面が最大で1.1m上昇すると予測。これまでの想定を大きく上回っています。それによって、東京など沿岸部の都市や島国では、これまで100年に1度といわれてきた大災害が、毎年のように起きるようになると警告しています。グレタさんが特に強調しているように、今後10年で未来が決まるともいわれています。
 ところで、お釈迦さまは、
  目に見えるものでも、見えないものでも、遠くに住むものでも、近くに住むものでも、すで  に生まれたものでも、これから生まれようと欲するものでも、一切の生きとし生けるものは、  幸せであれ(『ブッダのことば・スッタニパータ』岩波文庫)
と、在るべき生き方、幸福感を説かれています。私たちの「いのち」は、個別性と全体性といった二面があります。誰にも替わってもらうことのできないかけがえないのないいのちを「今」生きています。同時にまた、そのいのちは他者との関係性なしでは生きていけないいのちでもあります。地球を2019年の流行語大賞に準えて「ONE TEAM」とするならば、私たちはどのようにしてこの地球環境をも守り、未来に生まれ生きる人々に残していくことができるのか。「自己中心、人間中心を超えることを説く智慧」に学ぶことは少なくありません。グレタさんの、
  あなた方は、自分の子どもたちを愛していると言いながら、その目の前で子どもたちの未来を  奪っています。(COP24での発言)
という発言も説法のように聞こえてきました。突き刺さる言葉です。理想はわかる。しかし現実にどうすればいいのでしょうか。お釈迦さまのように、あるいは、出家仏教のようにみなが世俗の生産活動をやめて生きることは到底考えられないし、非現実的です(出家生活は在俗の人の生産物のお裾分けで成り立つものなので)。現実的には「二つの欲」がポイントになると思います。一つは、少欲知足の生活(個人)、二つに、環境に貢献することが企業の利益(営利)に繋がる社会(投資先の変更)の構築(社会)。「言うは易く行うは難し」・・・。 さあ「今」から。