法話 85号 2月・3月 発行
親鸞聖人御誕生 850 年・立教開宗 800 年慶讃法要
蜷川 祥美
浄土真宗を開かれた親鸞聖人(1173~1263)は、1173(承安3)年にご誕生され、1263(弘長2)年にご往生なさいました。聖人のご生涯の目標は、生死出づべき道、すなわち、迷いの世界を出て、さとりの世界へ往き、仏となることを目指すことにありました。
聖人は、9歳のとき、天台宗で得度をなさり、修行して仏となることを目指す生活を始められました。しかし、結局、29歳までの20年間の修行によっては、仏となることはかないませんでした。そのことに絶望なさった聖人は、法然聖人(1133~1212)のお弟子となられ、修行を完遂できないものも仏となることのできるお念仏の教えに帰依することになります。法然聖人の説かれたお念仏の教えは、当時の人々になかなか理解されず、聖人も1207(承元元)年に越後に流罪となるなどご苦労を重ねられながらも、多くの方々に、お念仏の教えを伝え続けられ、京都でその生涯を終え、ご往生なさいました。
そのような人生を歩まれた聖人は、さまざまな経典、論書を引用しながら、お念仏の教えの正当性を証明するために、1224(元仁元)年、52歳のとき、『顕浄土真実教行証文類』6巻を著されました。この書は、浄土真宗と称される教えのすべてが明らかにされているものであるため、その著述の年を、浄土真宗と称される教えが確立し、浄土真宗が開かれた年、すなわち立教開宗の年とするのです。
『顕浄土真実教行証文類』教巻に、「つつしんで、浄土真宗すなわち浄土真実の法をうかがうと、如来より二種の相が回向されるのである。一つには、わたしたちが浄土に往生し成仏するという往相が回向されるのであり、二つには、さらに迷いの世界に還って衆生を救うという還相が回向されるのである」(『顕浄土真実教行証文類(現代語版)』)と述べられています。浄土真宗という言葉は、浄土の真実の教えという意味です。浄土の真実の教えとは、往相回向と還相回向という2つの回向のことです。往相回向とは、阿弥陀如来の本願力によって、衆生が浄土に往生し、仏となることを意味し、還相回向とは、阿弥陀仏の本願力によって、浄土に往生した者が、再び迷いの世界に還ってきて、衆生を救うのだという意味です。
親鸞聖人のお言葉が示された『歎異抄』に、「本願を信じて念仏すれば必ず仏になる」(『歎異抄(現代語版)』)と述べられています。資質の低下した私たちは、修行を重ね、自らの能力を極限まで高めて、この世で仏となることが極めて困難です。そのようなものをあわれに思われて、仏としようと願われた阿弥陀如来の本願のはたらきを信じ、そのご恩に報いる思いで「南無阿弥陀仏」と称えるならば、浄土に往生して仏と成り、再び、迷いの世界に還ってきて、残されたものを救うはたらきができるのです。
親鸞聖人がお示しくださったお念仏の教えは、厳しい修行を重ねて、自らの能力を極限まで高めることによってしか仏と成ることができないという当時の常識をくつがえし、自らの能力のよし悪しにかかわりなく、阿弥陀仏の本願のはたらきを信じるだけで、あらゆる衆生が浄土に往生して仏と成ることができるのだという画期的なものでした。
出家修行者も在家信者もともに仏と成ることができるのだという教えが示されたことによって、多くの方々が、自らの愚かさを恥じつつも、仏と成らせていただけるという理想に向かって生き抜くことができるようになりました。そのことは、親鸞聖人がこの世にご誕生になり、ご苦労を重ねながらも、お念仏の教えを確立してくださったことをからこそ実現したことです。
2023(令和 5)年は、宗祖親鸞聖人のご誕生 850 年、また、その翌年は立教開宗 800年の節目の年となります。浄土真宗本願寺派の本山、本願寺(通称、西本願寺)では、3月から5月にかけて、5期30日間にわたって慶讃法要が勤められます。親鸞聖人のおかげで、800年以上も伝え続けられ、多くの方々のこころのささえとなってきたお念仏の教えが、現代の私にも届けられていることは、どのように時代が変化しようとも、変わらぬ理想の生き方が示され続けていることになります。これは、とても尊いことだと思います。そのことを慶び、親鸞聖人のご功績をこころより讃えさせていただけますなら、これに勝るしあわせはありません。