岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞真学塾 看護学部⑭ 小平由美子

どっちが多い? ~子どもの見ている世界~

岐阜聖徳学園大学看護学部専任講師・小児看護学 小平 由美子

「え~ん。Bちゃんのジュースのほうがボクよりおおいよー。」Aくんが泣いています。お母さんは,AくんにもBちゃんにも同じ量だけジュースを注いでいました。Aくんは,なぜBちゃんの方が多いと思ったのでしょうか。よく見てみると,AくんとBちゃんのコップの大きさが違います。Aくんのコップは底面積が広く,高さの低いコップ。Bちゃんのコップは底面積が狭く,背の高いコップでした。Aくんは,コップの高さだけを見て,「Bちゃんのほうがおおい」と言ったのです。このように,子どもの目に飛び込んでくる(=目立つところに意識が集中する)ことを,「中心化(centration)」といいます。これは,発達心理学の父と呼ばれているピアジェ(J. Piaget)が唱えた有名な理論「自己中心性(egocentrism)」の中の,代表的な概念の一つです。ここでいうところの「自己中心性」とは,自分勝手を意味する"ジコチュー"とは異なり,自分が見えている視点から世界を見ることを言います。子どもは,相手の立場でものごとを想像することが難しいので,自分が楽しいことは相手も楽しいに違いない!と思っているのです。

 さて,このような子どもの「自己中心性」を活かして,病院ではどのような工夫がなされているでしょうか。お薬が苦手なCちゃんは,目の前に置かれた錠剤を前にして「こんなにおおきなつぶ(錠)のおくすり,のめないもん!」と嫌がっています。子どもに携わる看護師は,このような場面によく遭遇します。この場合,看護師は医師に確認し,許可が得られたら,薬剤師にお願いして錠剤を砕いてもらいます。そしてCちゃんには,砕かれて小さくなった錠剤を渡し「ちっちゃなつぶなら飲めるかな?」と促します。そうすると,Cちゃんは「うん!」と言って,頑張ってお薬を飲むことができるのです。

 このように,子どもは発達に応じて様々な世界を拡げ,日々成長しています。看護師は,子どもの見ている世界を理解しながら,成長発達に合わせた看護ケアをしていく必要があるのです。(2021年11月21日岐阜新聞掲載)