岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞 真学塾 看護学部② 石原多佳子 

「尊厳を大切にする在宅の介護ってどういうこと?」

岐阜聖徳学園大学看護学部教授 石原多佳子

 病気や健康障害のある人を介護している家庭が多くあることをご存じですか。読者の中には実際に家庭で介護しているという人もいると思います。このコラムでは在宅で介護が必要な人を「療養者」、主に介護をしている人を「介護者」という言葉を使います。

 在宅の介護の方法は「こうあるべき」という正解はありません。長年の介護の経験から、家にあるもので工夫したり療養者にあった方法を編み出したりとその創造性は限りないものです。

 さてここでは療養者の尊厳を大切にする介護について考えてみましょう。

 Aさんは、体が不自由なことや認知症などによって、失禁(お漏らし)をすることが多くなりました。Aさんは濡れた下着や衣類を隠したりそのままベッド柵に干したりするようになりました。介護者はAさんに。訪問看護師さんから紙パンツを勧められました。あなたが介護者ならどのようにAさんに勧めますか。

① 介護者「このパンツ紙でできているけど、履き心地よくて使い捨てだから汚れても安心だね」

   Aさん「これ、おむつじゃないの、そんなものはけない。馬鹿にしてるの」

   介護者「おむつじゃなくてパンツだよ。私でも旅行の時とか便利だし履きたいくらい」

 恥ずかしい、情けない、迷惑をかけているなど複雑な気持ちを配慮した介護者の対応ですね。

② 介護者「またこんな所に下着隠して、臭いでしょ。何回言ったらわかるの」

   Aさん「・・・・」

介護者「看護師さんに紙パンツがいいと勧められたから、今日からはこれ履いて」

Aさん「おむつ履くなんて、赤ちゃんでもあるまいし・・・・」

 その人の自立した人格的存在として尊重できない介護は「不適切なケア(介護)」といいます。このような何げない言葉や行為の繰り返しが重なると、悪循環が起こり取り返しのつかない事態に発展することもあります。

 しかし、自宅での介護は24時間休みなく続いていきます。介護者は感情的になって言い過ぎたり、療養者が悪く受け取ってしまうこともあります。介護者と療養者の関係性のバランスが大切になります。介護サービスを利用したり、専門職に相談したりしながら弱い立場にある療養者の持っている価値を尊重し、その心情に時に思いをはせる余裕を持つことが尊厳を大切にする介護につながるのではないでしょうか。( 2021年8月22日岐阜新聞掲載)