岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞真学塾 短期大学部④ 大西薫

ヒトの赤ちゃんと子育て

岐阜聖徳学園大学短期大学部准教授 大西 薫

 私は大学で、保育士や幼稚園の先生になりたい学生に向けて「子どもの保健」や「子ども家庭支援の心理学」を教えています。ヒトがどのように成長発達していくのか、特に子どもの頃は、子ども特有の病気やケガがあり、その対応やケアについて授業で学ぶとともに、ヒトの子育てや家庭を保育者としてどのように支援していくのかについて考える授業をしています。

 ヒトの赤ちゃんは、他の哺乳類と比べて大変未熟な状態でこの世の中に誕生します。例えば、シカやウマの赤ちゃんは生まれて1時間で立ち上がり、移動できるのに、ヒトの赤ちゃんが自分の力で立つことができるのは生まれてから10か月を過ぎた頃。ヒトの赤ちゃんに近いチンパンジーの赤ちゃんは、大人にしがみつける握力をもって生まれているのに、ヒトの赤ちゃんにはそのような力はなく、抱っこしてもらわなければなりません。ヒトの赤ちゃんは産まれただけでは自力で生き抜くことはできません。必ず、誰かにお世話をしてもらわないと赤ちゃんは育たないのです。この誰か、というのは赤ちゃんを産んだヒトに限定したものではありません。赤ちゃんを大切に大事に思う大人が赤ちゃんを育てていきます。

 そうだとはいえ、赤ちゃんを大切に思っているそのヒトは本能で赤ちゃんを育てているわけではありません。赤ちゃんは泣くことで意思表示をしますが、その泣きに対して、正しく解釈できないこともあります。どうして泣いているのか悩んだり、戸惑ったり、時には育児に向いていないのではないか、と自分を責めたりしてしまいます。また、分からないからこそ、育児書で調べたり、年配者に尋ねたり、専門家の指導を受けたりしながら、子育てをしていくのです。心理学的に考えると、ヒトは子どもの育てかたを「学習」しているということになります。もちろん知識だけではなく、色々なヒトに助けてもらいながら(その専門職の1つが保育者です。素敵な職業ですよね!)みんなで協力して子育てをする、それが本来のヒトの子育ての姿です。ヒトは1人では生きることはできません。誰かを助けたり、助けられたりしながら生きているのです。(2022年2月6日岐阜新聞掲載)