岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞真学塾 短期大学部⑦ 阪田順子

弾いている体も音楽なのよ

             岐阜聖徳学園大学短期大学部教授 阪田順子

 長くピアノ教育に携わっていますが、最近になって非常によく考えることがあります。それは、どんな楽器であれ、奏でる人の体も楽器のうち、音楽の内だということです。同じ曲の演奏でも、大きい体の人と幼児では繰り広げられるサウンドは同じではありません。

 また、グランドピアノを弾く時など、演奏者が正面の遠くを見つめて弾くのと、うつむき体をこごめて小さく硬く弾くのとでは違ってきます。また、演奏する人は皮肉にも、一番良い響きを聴くことはできません。弾いている最中に、3m先の人にはどんな音が聞こえているのだろうかと想像することがあります。うらやましいな、と思います。そちらが本当のピアノの音だからです。

 学生が自ら出す音を聴いてもらいたい一心で、譜面台の製作に取り組みました。譜面台を置かない状態が一番いいのですが、譜がないと弾けない学生のためには、譜面台は必要です。アクリル、ガラス、鏡の見るも美しい譜面台が出来上がりました。また200年前の博物館に飾られている美しい木製彫刻の譜面台の再現にも取り組みました。多くの業種の専門家の協力を経て本当に素晴しい作品がいくつも出来上がりました。

 大学の授業でこれらを使ったところ、学生のピアノに向かう姿勢が変わってきました。楽譜に釘付けになっていた目が、少し距離をもてるようになり、閉じていた耳が譜面台の向こう側、つまり音の発する楽器本体の響きを聴こうとするようになったのです。これまでは鍵盤だけが鳴っているように錯覚し、手元にしか気持ちが行かず、イメージを広げられなかったのです。楽譜に目が固定されたままでは、自分の音は心まで届かないからです。

 私自身美しい彫り物の木製譜面台を使うと、理想的な姿勢で長時間ピアノに向かえ、断然やる気が出ちゃうのです。歴史上の絵画の一部になったような素敵な心持ちになることもありますよ。例えばフェルメール『ヴァージナルを弾く娘』のように(笑)。

 皆さんも譜面台の向こうの世界をのぞいてね。そこに本当の音楽があるのですから。(2022年3月27日岐阜新聞掲載)