岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞 真学塾 経済情報学部⑲ 松葉敬文 

情報社会での合理性と直観

岐阜聖徳学園大学経済情報学部准教授 松葉敬文

 現代は非常に多くの情報に溢れています。膨大な情報の取捨選択に、私たちはしばしば四苦八苦しなければなりません。時には困ってしまい、深く考えずに勘で選んでしまうこともあるでしょう。

 実際、多すぎる選択肢(情報)が私たちの判断を鈍らせることは、経済学や心理学の実験によって何度も確かめられています。例えば選択肢が多すぎると、意思決定そのものを止めてしまう(決定回避の法則)。いつもと違うものが欲しいと考えていても、いざ選択肢が増えると普段と同じものを買ってしまう(現状維持バイアス)。選択の判断には、実に様々なバイアスが存在します。

 そもそも判断の基準となるヒトの「好み」自体、かなり曖昧なものなのです。心理学の認知的整合性理論は、自分の所属グループ(恋人や家族、仲間)が好きなモノは自分も好きになる、と説明しています。また「嬉しさ」に関する脳機能解析は、好きな相手からロマンチックなモノを貰うと、普通のモノを貰うときより嬉しく感じる(但し好きな相手からに限る)といった結果も示しています。周囲の環境や状況によって、ヒトの好みは容易に変質するのです。

 膨大な情報を伴う選択肢、SNSなどで多様化した人間関係。現代社会の環境が生み出すバイアスに囲まれている私たちが、合理的な計算の積み重ねで正しい判断を実現することは、とても難しいことです。では、どうすればいいのでしょうか。

 選択科学の専門家であるコロンビア大学のシーナ・アイエンガーは数多くの実験の結果を踏まえ、自分の経験を何度も振り返った上で獲得される直観(Informed Intuition)は、合理的思考だけで到達する結論より、適切な判断を実現できると述べています。判断に困った時は、客観的な事実から論理で結論を導くのではなく、主観的な経験の自己検証による直観の精度向上で対処する。ビッグデータの解析やAIのフィードバックが効果的に利用されている現代で、ヒトの直観が重要であるとはちょっとしたアイロニー(皮肉)です。でも、ぜひ過去の自分の経験や結果、その時の思いをじっくり検証してみてください。「経験を積んだ直観」を利用することは、高度な情報社会で暮らす私たちにとって大切な生きる知恵なのです。(2021.7.25岐阜新聞掲載)