岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞 真学塾58 教育学部 国語専修 今井亨  

言葉のアンテナ

岐阜聖徳学園大学教育学部准教授 国語専修 今井 亨

 入試問題の素材文は、主に難易度や設問の作り勝手などから検討されるのでしょうが、多くの生徒に読んでもらえるのだから国語への興味も持たせたいと願って選ばれてもいるでしょう。

 「どんな未来がお望みなんだよ、言ってみろよ、おい。」という発言で始まる問題を目にしました。前書きによれば、男子中学生の会話とのこと。将来の進路・希望について親友に尋ねている場面のようです。この「お望み」という表現、敬語の種類としては、「望む」主体ここでは話しかけている相手(親友)の動作を取り上げていますから、尊敬語ということになります。さて、親友に対して尊敬語を用いるとはどういうことなのでしょうか?

 とりあえず、ふだん言いそうな言い方に置き換えてみましょう。「(どんな未来が)希望なんだよ」、「(どんな未来が)いいと思ってるんだよ」、「将来どんなふうになりたいんだよ」などでしょうか。仲のいい友だち同士ならざっくばらんに気軽に話しかけてもよさそうです。たしかにこの後には、「言ってみろよ、おい」とやや乱暴な物言いでせかしてもいますね。「お望み」という、ふだんの二人の間柄に似つかわしくない言い回しをあえてしたところには、男子中学生の複雑な気持ちがからんでいそうです。みなさんはどんな印象を受けるでしょうか? ちょっとかしこまって唐突に話を切り出しているようにも聞こえますし、茶化したりからかったりしているようにも感じられるでしょう。話題が重いので照れ隠しっぽいかもしれません。

 このように、文法として習う事柄でも注意深く観察してみると、さまざまなニュアンスや効果をともなって用いられていることに気づきます。そして、文学的な文章では登場人物の心情やお互いの関係を捉えることが大切だとよく言われますが、具体的にはこうした言葉の一つ一つが作品世界に入り込んでいく仕掛けになっているわけです。

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