岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞 真学塾㊲ 教育学部 社会専修 吉永和加

背伸びをしてみましょう

             岐阜聖徳学園大学教育学部教授(現教育学部長) 社会専修 吉永和加

 みなさんは、日々、どこから情報を得ていますか。インターネットのサイトからですか。学校や教科書からですか。本や漫画からですか。それともSNSでのやりとりを通じてですか。いずれにしても、みなさんは、そのようにして得る情報の背後に、もっと膨大で複雑な現実があるのでは、と薄々気づいているのではないでしょうか。

 では、別のことをお聞きします。みなさんは、どんな情報が欲しいですか。面白いものですか。重々しいものですか。難しいものですか。分かりやすいものですか。刺激的なものですか。学校で教わるときや本を読むときに、望んでいることを思い浮かべてみてください。それは「分かりやすく、面白い」ことなのではないでしょうか。

 さて、現実の世界は膨大で複雑です。しかし、私たちは「分かりやすく、面白い」ことを求めます。そうするとどうなるでしょうか。答えは簡単です。膨大で複雑な現実が、切り取られて簡単にされ、面白く味付けされ、ねじ曲げられて私たちに届くことになります。歴史が教えてくれるのは、不幸な場合には、現実が誰かによって都合よくねじ曲げられ、私たちがそれを信じ込まされてしまうことです。

 私たちが、膨大で複雑な現実に対して「分かりやすく、面白い」ものを求めたとき、私たちが手にする世界は、一見、甘くて楽しいけれども、その実、現実に背を向けて満足を得るだけの、見通しのきかないものになります。たとえるなら、広大な海の片隅に、小さな自分用のプールを作ってぽちゃぽちゃ遊んでいるような状態です。あるいは、苦くて甘くて辛くて酸っぱくて歯ごたえがある食べ物を、どろどろの離乳食にして口に入れてもらっている状態ともいえるでしょう。

 でも、私たちは、本当は、広く深く豊かな世界に生きているのです。しかるべき時期が来たら、広い海に出て、豊かな味を自分の歯と舌で味わいたくはないですか。そのためには、背伸びをしてみることが必要です。背伸びをするとは、少しだけ冒険してみること、つまり難しい本に手を出してみること、堅いドキュメンタリーを見てみること、重いニュースを聞くこと、自分を褒めてくれない人の話に耳を傾けること、そしてそれらについてよく考えることです。私たちを知らぬ間に操ろうとするものの甘い言葉に騙されないために。そして何より自分自身のかけがえのない人生を自分で選び取って生きていくために。

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