岐阜聖徳学園大学 岐阜聖徳学園大学短期大学部

岐阜新聞 真学塾60 教育学部 数学専修 鈴木明裕 

数学は現在も創られている

岐阜聖徳学園大学教育学部教授 数学専修 鈴木 明裕

『30年以上未解決,数学の難問「ABC予想」を証明』というタイトルの記事が2020年4月4日の岐阜新聞26面で大きく報じられました。

 皆さんの中には,「数学の問題でまだ解かれてない問題があるの?」「予想って何?定理じゃないの?」と疑問をもった人がいるかもしれません。

 記事では「予想は新定理となり,整数に関する他の未解決問題の証明につながるとみられる」「掲載までには7年半かかった。研究開始からだと20年にもなる」と示されています。

中学校数学教科書には,「すでに証明されたことがらのうちで,いろいろな性質を証明するときのよりどころとしてよく使われるものを定理という」と書かれています。定理はすでに証明されたものであるのに対して,成り立つだろうと推測されているが証明されていないものを予想と言います。今回「ABC予想」は証明されたということですので,今後は「ABC定理」と言われるようになるかもしれません。

 「掲載までには7年半」というのはどういうことでしょう。記事では「論文が大部で独特な新理論の審査だった」「海外の数学者からの懐疑的な議論も起き」とあります。「証明できた」という人がいても,本当にそれが正しい証明かどうかを判断するのに時間がかかったということです。しかも,今まで誰も解いていない問題についての証明です。「独創的な新理論」は,新しい数学が創られているとも解釈できます。だから,読んで理解し,批判し,判断するのに時間がかかるのは当然です。この新しい数学が,多くの人に読まれ,理解され,使われる定理となるまでには,まだまだ時間がかかるかもしれません。

 数学の中には多くの未解決な問題・予想があり,その難問を解こうと多くの数学者が取り組んできました。数学にはそうした歴史があります。今から100以上前の1900年にドイツの数学者ヒルベルトは,当時未解決だった23の数学問題を提示しています。その中の第9問題と第12問題の解決には,岐阜県出身の数学者 高木貞治(1875-1960) が大きく貢献しているといわれています。また,第8問題に含まれる素数に関するリーマン予想は未だに解決されていません。このように,未解決の問題を解くことで,新しい数学が創り続けられています。

 数学は,神様から授けられたものではなく,多くの先人たちの努力によって創られた文化です。現在も創り続けられています。そして,新しい数学が皆さんの手で創られていくことを願っています。

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